好きだけど、きらい。













White house,red heart and 


















雪が、嫌いで。



雪の所為で真っ白になる家が嫌いで。



溶けた雪はもっと嫌いだった。





お気に入りの赤い屋根が隠れてしまうことも不満だった。

自分が夏生まれだからかもしれない。寒いことが苦手で、それでも

外に出たくて、やりたいことを満足に出来ないストレスが溜まるのは

この上なく苦痛だった。

本来ならそんな不満を腹に溜めながら懸命に炬燵(こたつ)の中で

冬が過ぎるのを待つところだけど、今日は生憎大っ嫌いな冬の醍

醐味・雪掻きを手伝わされる羽目になって外に出ている。姉と叔父

は家の塀伝いをどんどん掘り進めていたのに私は未だにやる気が

起きなくて、分厚い上着を纏ってただ門の前で雪掻きの道具を抱え

ていた。




「ナーミさん。」



家の正面から続く長い道路の向こうから、茶色いブーツで雪を踏み分

けて1人の男がやってくる。それもド金パツ、の。

「あらサンジ君! 明けましておめでとう!」

「いやナミさん、それあと1週間あるし・・・」

「そう?最近日付感覚なくて。」

とすると、今日は12月25日のクリスマスで。

サンジ君とはもう3年以上も居るけど、別にクリスマスイブを一緒に過ご

したりだとか、お互いの誕生日を祝うだとか、そんなイベントに特別な意

味を持ったことはなかった。当然今年のイブも、スルー。

「あらサンジ君じゃない。歩いてきたの?」

「すぐソコ、ですから。ああお姉様、今日もお美しい・・・」

「雪、かけるわよ。」

毎回のことだけど、あまりにノジコにデレデレするものだから。

サンジ君のジャケットの襟から雪を流しいれてやろうとしたら、「ごめん!

ごめんなさい!」と子供みたいに慌てていた。雪を入れたらどうなっていた

か、にも興味があるけど。(結構本気だったのにな)




「ねえナミさん、ちょっと散歩しねェ?」

「散歩?」

「またデート?ほら行っといで、ナミ。」

雪掻きを再開しながらノジコが私の肩を軽く押した。私はまだ、道具をただ

抱えたまま。

「散歩って・・・どこ行くのよ。」

「すぐソコ。目と鼻の先。」

サンジ君の言うことは時々疑いたくなる。本心では何を考えているのかが

たまに掴めない。

「でも私雪掻きが・・」

とりあえず今回も、まず疑う方を取るとして。

今まで少したりとも手伝ってなんかいなかった雪掻きを理由にしてみる。

「お姉様、ナミさん借りてってもイイ?雪掻きならおれが明日しとくから。」

「どうぞどうぞ。この子家にいてもなーんにもしないだけだから。」

「してるわよ!学校の課題だって・・・」

「決まり。・・・じゃあ借りてきます。夕方には送りますので」

「行ってらっしゃい」

「ちょっ・・・勝手に決めないでよ!」



「行こ」、とそれだけ言われて連れ出される。

本当に考えてることが読めなくて、半ば引き摺られるように雪道を歩いた。

























雪が、嫌いで。



雪の所為で真っ白になる家が嫌いで。



溶けた雪はもっと嫌いだった。





お気に入りの赤い屋根が隠れてしまうことも不満だった。

でも、それは何処の家でも同じことなのだろうと思った。道路の両脇に並ぶ

住宅街の色とりどりの屋根には必ず雪が乗っていて、綺麗なカラーリングを

殆ど隠していた。

でも、そんな光景を見るのが嫌いなのは私だけで、他の人は好きなのかもし

れないな。


青が水色に、

赤がピンクに。

全ての屋根がパステルカラーに変わるから。


濃い色が好きな私は、春が来たみたいな可愛い淡い色を喜べなくて。


それ以前に、自分の家の赤い屋根が好きなことには理由があった。

その辺の男よりもずっと男勝りだった母が、生前、顔にたくさんペンキをつけ

ながら塗ってくれたのが今の屋根だった。少しの斑(むら)も無い、綺麗な赤

い色は、雪の白さに埋もれてしまったら空から見えないかもしれない。屋根

の赤は元気の赤。私達は今も元気でこの家に住んでいる、ということを天国

まで伝えなければならないと。そう強く、感じた。

8歳だった。


それにしても私はどこか捻くれたところがある。すぐ苛々して怒鳴ったりもして

しまうのに、隣を歩くサンジ君がポケットの中で手に温もりを与えてくれるのは

何でだろう。本当に、読めなくて。




だから、未だに何処へ連れて行かれるのかもわからなくて、それでも歩き始め

てだいぶ経ったことだけはわかった。景色は住宅街をすっかり抜けて、全身を

映すほどの大きなガラスが左右から圧迫感を与える。ガラスの向こうの洒落た

洋服の中から好みのものを探す暇も無い。サンジ君の長すぎる脚と比べたら、

歩幅も違いすぎる。うまく会話さえ出来ない。

「ちょっと・・・、どこ行くのよ。いい加減・・教えなさいってば。」

「もうすぐ。」

さっきからそればかりだ。



「オー、すげェ人だかりだな。ちょっと遅かったか。」



前を見ていなくて気付かなかったけど、いつの間にか私達は人ごみの中のヒトカ

ケラになっていた。一般平均の間では割と背が高めの私でも、あまりの人の多さ

に向こう側が見えなかった。

「何?これ・・・。」

「ナミさん知らないだろうと思ってサ。毎年此処ででっかいオルゴール鳴ってんだ

よ。」

「オルゴール?」

人の頭の向こうに、僅かに白いものの天辺が見える。

(これは・・・ツリー?)

真っ白いツリーらしかった。だけど、オルゴールが何処にあるかは見えなかった。

「ねえサンジ君。オルゴールはどういう・・・」

「シッ。始まる。」

サンジ君に向けていた目線を前に戻すと、懐かしいような凛とした音が耳に心地よく

伝わってくるのを感じた。1つ1つの音が、胸に響いて何かを揺らした。









オルゴールは12時からの僅か1分間しか鳴らなかったけど、私の足はその場に凍り

ついたように離れず、目はツリーに釘付けだった。次第に薄くなった人の層を掻き分

けてツリーの正面へ出た。思っていたよりも、大きい。

「オルゴールは・・・?」

「このツリーに内臓されてんだ。見えなかったかもしれねェけど、オルゴールが鳴っ

てる間はこのツリーも回ってたんだぜ。」

「へえ・・・」

それ以外言葉が出なかった。大きくて、綺麗で。どう言い表していいのかよくわから

ない。

でも、こう在りたい、と思った。





















白、は雪の色。








真っ白いこのツリーを見たら







雪も捨てたものじゃないと、素直にそう思えた。




































灰色がかっていまいち暗い空。


この世にも美しい白色のツリーは夜になるとライトアップされて更に美しさを

増すという。


こんな中途半端な暗さじゃなくて、漆黒の闇の中で光るツリーはどんなに綺麗

だろう。

「オルゴールが鳴るのは0時と12時だけなんだ。けど、ライトアップはそれより

前にされるから少し時間つぶしてまた見に来よう。」

ぎくっとした。私はちっともこの男の考えを読めないのに、どうして彼は私の思っ

ていることをいつでも当ててしまうのか。

「・・・ナミさん?」

咥え煙草で覗き込まれ、急に照れくさくなって方向転換した。サンジ君、を。

「ナミさん?」

「それまでうちでお茶でも飲んで待ちましょ。・・・いいでしょ?」

「あァ。」


今度は急ぎ足じゃなくて、家までゆっくり時間をかけて歩いた。

ショーウィンドーに好みの服など見つからなかった。



でも。






























ありがとう。


















貴方のお陰で少し、あの屋根の雪も許せそうな気がするの。





















だって白は、























全てを柔らかく、落ち着かせる






















サンジ君の色でしょう?
































辿りつくまでに1時間も掛かってしまったこの家の屋根は雪が積もって


薄いピンク色。





































これが私の、今の気持ち。







FIN.






衝動で書きたくなったクリスマスサンナミ。(笑)

ちなみにタイトルの意味は、屋根の雪が溶けたら赤が見えるということ、

つまりはハートがピンクから赤になるということをイメージして。(伝わりにくい・・・)



私は冬も雪も白も大好きです。

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