手をつないで、耳を塞いで。
 
 
 
 
  ク ラ    ク
 
 
 
 
 
 
 
ノースブルーには珍しい、
 
まあ春だから、と言ってしまえばそれまでの
 
ぽかぽかと暖かい日。
 
 
 
おれは自分の身体には見合わない大きな紙袋を抱えて、小さな丘を越えるところだった。
 
前を見るのもおぼつかない。それというのも、紙袋から1つ飛び出たフランスパンの所為だ。
 
 
袋の中に入っているのも不揃いなもので、缶詰やら果物やらミルクやら。おかげで、底を押
 
さえる手のバランスがうまくとれない。仕方なく一度止まって、紙袋を持ち直そうとしたそのとき。
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うわあっ!」
 
 
 
 
 
ちょうど持ち直そうとした紙袋を、少し手から浮かせたところだった。
 
案の定、袋の口から物がぼろぼろと零れ落ちる。
 
それ以前に、転んで打ち付けた腰と背中が痛かった。
 
 
「いってー・・・」
 
「ちょっと何やってんのよ!気をつけてよね!!」
 
 
脳震盪まで起こしたように頭がクラクラしていて、目も開けられなかったのだが。
 
 
目で見るよりも耳に存在感が響く。
 
明らかに自分より年上のその声。慌てて目を開けた。
 
―――また怒鳴られる。
 
そんな気がして。
 
・・・が、目の前に居たのは大きな目を見開いて自分を見つめている女の子だった。
 
目線が同じことからして、彼女も転んだのだろう。しかし、明らかに今転んでつけたとは思えない傷
 
いくつもある。喧嘩の帰りだろうか。それにしてもこんな子供見たことが無い。ただでさえ子供の
 
少ないこの村に・・・
 
 
「ちょっと!聞いてんの?  謝りなさいよ!こっちはこーんな傷が出来てんのよ!?女の子なのに!」
 
『女の子にしては傷がありすぎだ』と言おうとはしたが飲み込むことにした。彼女が指差す膝には、
 
確かに今出来たばかりと思われる生傷。
 
「だけど、ぶつかってきたのはそっち・・」
 
「あーもうっ!はっきりしないやつね!男ならスッパリ謝るのが筋ってもんでしょう!」
 
「・・・ごめんなさい。」
 
あまりの権幕に、不本意に謝ってしまった。これこそ男の筋が・・・
 
「・・・すきなの?みかん。」
 
「え?」
 
 
気付けば、袋の中身をぶちまけた自分よりも先に、落としたものを拾ってくれていた。手には彼女の髪
 
と同じ色のみかん。・・・ほんとはオレンジ、だけど。まあ少し小ぶりだし、間違えるのも無理はないか。(?)
 
「うん、まあ。でもそれはただオレンジソースを作るだけの・・・」
 
「きらいなの!!?」
 
「いや!すき、だよ・・・」
 
 
 
どうも、苦手だ。この子。
 
見た目自分とそれほど歳が違うようには見えないけれど、どうしても態度で負けてしまう。
 
 
 
 
さっきからやけに念入りにオレンジだけをスカートのすそで磨いている。何かみかんに思いいれでもある
 
だろうか。
 
「なんでそんなにみかんが好きなんだよ。」
 
「・・・別にいいでしょ。」
 
まだオレンジを磨き続けている。心無しか少し寂しそうな表情に気付く。
 
 
子供心に。好奇心は持ったが、
 
聞けなかった。
 
聞いてはいけないような気がして。
 
 
自分も無言で辺りに散乱した野菜を拾う。1つずつ手で土埃をはらって。
 
 
時々隣を見た。1つ目のオレンジは大事そうに膝にかかえて。2つ目のオレンジをまたスカートのすそで
 
磨いている。
 
単純に、その姿を可愛いと思った。袋に物を移す手がとまる。
 
「ねえ」
 
「なに」
 
不意をつかれた質問に、すこしびっくりしたような返事になる。見とれてたなんてとても言えない。
 
「あんたがつくるの、オレンジソース。」
 
 
 
またもや不意をつかれた。
 
この状況でそんな呑気な質問。
 
 
 
「うん。そうだけど?」
 
・・・次は何がくるんだろう。
 
内心ドキドキしていた。
 
よく、わからない子だから。
 
今よりもっと意外なことを聞かれる気、が、する。
 
「ふーん・・・ねえ、ちゃんとおいしいんでしょうね?」
 
「そりゃうまいさ!」
 
 
 
 
口をあんぐり開けられた。
 
サンジは思わず立ち上がって叫んでしまったのだ。
 
恥ずかしくなって少し赤面した。
 
もう1度しゃがんでじゃがいもを乱暴に袋に詰め込む。
 
女の子の反応を見るのが少し怖かった。
 
「ふーん・・・」
 
また、意外な言葉。
 
もっとこう、感嘆の声とか・・・
 
まあ、味もみてないので無理ないが。
 
「ねえ、これ1つ頂戴。」
 
さっきのつまらなそうな・・・それより前の、寂しそうな表情とはうってかわって。
 
手にはぴかぴかで眩しささえ感じるオレンジ。
 
「え、でも、あの・・・」
 
それは、たのまれた買い物だから・・・
 
「ぶつぶつ言わないの!男ならさっさと決めなさいってさっきも言ったでしょう!」
 
その、男だから、とかいうの、あんまりすきじゃない。
 
男にも断る権利が・・・
 
「いででで!」
 
口の中でもごもご言っていたら、ほっぺたをものすごくつねられた。
 
 
痛い。
 
 
「いーい?世の中にはね、レディーファーストっていう制度があるのよ」
 
「れいーふぁーふほ?」
 
「女が中心で世の中が回ってるって意味よ
 
            わかったら、いいわね。このみかん。」
 
 
 
イタズラな笑顔に、あとで買いなおせばいいか、という気になってしまう。
 
“レディーファースト”なんて、恐ろしい世の中になったもんだ。
 
 
 
 
斜めかけにしていた白いカバンに綺麗なオレンジを仕舞う。
 
すると、地面に舞い落ちた・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
血のついた、
 
お札。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
慌てて仕舞ったけど、もう遅かった。
 
ぽかーんと見てる。私の手を。
 
そんなお日様みたいな髪の色で。
 
綺麗な海の色の目で
 
 
こっちを見ないで。
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・」
 
 
何か聞かれるかと思ったけど、驚きの方が多かったみたい。
 
カバンの中でそのお札をぐしゃぐしゃにした。
 
「・・・港までの道、教えなさいよ。」
 
「!」
 
「道がわかんないのよ。あんたここの子でしょ?」
 
「あ、うん・・・」
 
 
 
やっと片付け終わった紙袋を抱えて、眩しい髪の色をした男の子が立ち上がった。
 
 
 
私より、
 
 
背が低い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「こっち。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
でも、不思議と
 
 
私より背中が大きく感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
足が止まる。突然罪悪感と恐怖が
 
脳を支配していく。
 
首を傾げる男の子を見て、何故だか
 
泣きたくなっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ねえ、手、つないで。」
 
「え・・・」
 
紙袋を両手で支える彼に、繋ぐ手など無い。
 
「荷物なら半分持ってあげるから。ほら、こっちのカバンに移してよ。
 
                  ・・・別に心配しなくても、盗んだりしないわよ。」
 
これは本心だった。
 
 
 
 
 
 
何か理由が要るのなら、
 
私が欲しいのは食べ物じゃなくて、
 
 
お金なの。
 
 
 
 
 
そんな言葉すら必要ないと、素直に思う。彼も別に疑ってる素振りはない。――良かった。
 
 
 
フランスパン1本と、人参と、トマトとジャガイモ。それとみかんがもう1つ。
 
あとは手を繋ぐだけ。
 
 
 
 
 
港までの道は、丘を登ったり下ったりだけ。
 
遠すぎてまだ港が、海が見えない。
 
 
 
日の光とは別に、温もりが手に伝わってくる。
 
こうしていると、島で過ごした幼少時代が蘇ってきた。
 
 
 
 
 
 
 
3人で手を繋いで歩いた
 
海岸。
 
街。
 
小さなみかん畑の中。
 
 
 
 
 
 
自覚も無い。
 
手を、強く握りすぎたようだ。
 
「いたいよ」と顔を顰められた。
 
「だってこわいんだもん。」
 
「何が?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「鉄砲の音。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
目を閉じれば今でも。
 
嫌というほど鮮やかに
 
 
 
 
 
あの日の出来事が事細かに蘇る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
時の流れを、
 
事の起こりを。
 
 
止められなかった自分。
 
 
守れなかった、ひと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「耳を塞ぐわ。」
 
「どうして?」
 
「だって、聞こえるもの。鉄砲の音。」
 
「聞こえないよ。こんなところで。」
 
「塞ぐの。」
 
「塞いだら手が繋げないよ。」
 
 
 
いつの間にか立ち止まっていた。   ナミが声を発してからか。
 
「じゃあこっちの耳ふさいで。私は反対側をふさぐ。」
 
「できるもんか!こっちの手は荷物かかえてんだから。」
 
どちらにしろ、無理な注文だったことはわかっている。ただ言ってみたかっただけ。
 
 
そうでもしないと、
 
押し潰される。
 
 
「聞こえやしないさ」
 
また歩き出す。
 
「怖がることないよ」
 
 
 
 
 
 
子供らしい励まし方。
 
それでも、
 
嬉しかった。
 
 
 
 
 
 
 
それから暫くして港についた。見上げても見上げきれない大きな船ばかりが並んでいる。
 
ここはかなりの貿易港らしい。と、いうのは勿論調査済み。だからこの村に来たのだ。
 
 
「どの船?」
 
サンジが目の上に手をかざして、ぐるりと港を見回した。
 
「そうね、あの白い帆のやつ。」
 
「『そうね』って・・・チケットとか持ってないの」
 
「私を誰だと思ってんの?タダ乗りに決まってるでしょ。タダ乗り。」
 
また意地悪く笑う。本当に子供なんだろうか・・・
 
 
手はまだ繋がれたままだった。
 
 
「じゃあ返すわね。さっきの買い物」
 
「いいよ、べつに。あげる。」
 
「でも・・・」
 
「いいってば」
 
大慌てで手を振った。ナミの目が鈍く光る。
 
「・・・失礼ね。別に私は食べ物に困ったりしてないわよ!」
 
「別にそんなつもりじゃ・・・」
 
「・・・いいわ。ありがと
 
          遠慮なくもらっとく。」
 
取り出しかけたジャガイモをカバンに戻し、その代わりあのピカピカのオレンジを取り出して頬擦りする。
 
ほんとに好きなんだな、とサンジは自然に微笑んだ。
 
「どうやって乗り込むの?」
 
「そうね、荷物が積み込まれるのに紛れていくわ。  有難うね、色々。」
 
「いや・・・」
 
 
 
繋いだ手が離された。
 
出航の合図のように。
 
 
 
「じゃあ、ありがと」
 
「うん」
 
 
 
 
 
一瞬だった。
 
 
 
 
 
走り出した後ろ姿に手を振った。
 
 
 
いつまでも。
 
 
 
 
見えなくても。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
手をつないで、耳を塞いで。
 
 
 
どちらかしか出来ないのなら、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
手をつないで。
 
 
 
 
 
FIN.
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・えー、長い長い。(感想)ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!(いるのかな!/明るく)
 
ええと、ナミさんがノースブルーまで遠征(爆)に来たお話です。(激爆)(そんなとこまで足を伸ばすの・・・?)サンジはナスになる一歩手前です。(ナス!)
 
ていうか・・・。なんとなく、年齢は10〜年前くらいをイメージして書いたのですが、それでもアーロンが襲来したあとの話で・・・(・・・)いろいろありえないことになって
 
ますね!(明るく)タイムラグ・・・どころではない、な。(遠い目)すいません・・・!読んでる方がいらっしゃるかもわからないけれども、ただひたすらすいません・・・!(ヒィ!)
 
ええと、自分として一応初のCPモノ・・に、なるのかな・・・。(再び遠い目/戻ってきて!)CPにしては子モノだしぬるい(ぬるいて・・!)ので、いつもどおりのほのぼの(か?)
 
な感じで読んでいただければv私は表現力と幸の薄い子なので(不憫!)、全ては皆様の感性のままに読んでいただければな、と。
 
 
最後にもう一度。
 
最後までお読み頂き、ありがとうございました!                                                     03.09.14.管理人Mr.プリンセス
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